(その4からのつづき)
ポリグラフ検査による鑑定と考察
ここまでの検証結果で、「ラタラジューの事例」が真性異言である可能性はきわめて高い、と判断できるものでした。
そして、最後の詰めの検証として、ポリラフ検査をおこなうことにしました。
ポリグラフ検査は、一般に「嘘発見機」と呼ばれているものです。
人は記憶にあることを聞かれたとき、無意識に身体が反応してしまう、その微少な生理的反応の変化を身体各部にセットした精密な測定機器によって記録し、その記録を分析・解読することによって嘘を見抜くという原理です。具体的には、検査者の質問に回答するときの呼吸・脈拍・発汗などの微少な変化を計器で測定・記録することになります。
ポリグラフ検査による鑑定で、里沙さんが意図的にネパール語を学んでいた記憶はないという鑑定結果が出れば、科学機器を用いた検証結果として強力な証拠能力を持つだろうと考えたのです。
この提案を里沙さんに伝えましたが、彼女とご主人への説得は難航しました。
証言書まで書かせておきながら、その上にポリグラフ検査とはいかにも疑り深過ぎると思われるのは至極当然の心情です。
結局、生まれ変わりの科学的研究への貢献のためにという粘り強い説得によって了解を取り付けることができました。
ポリグラフ検査で決定的に重要なことは、測定記録データを精査・解読でき、信頼できる鑑定眼を持つ検査技師に依頼することです。
そうした権威ある検査者が、事情をすべて知ったうえで快く引き受けていただけるかが気がかりでした。
人選の結果、日本法医学鑑定センターの荒砂正名氏に依頼することができました。
荒砂氏は、前大阪府警科学捜査研究所長で、36年間に8000人を超える鑑定経験を持つ日本有数のポリグラフ検査の専門家です。
鑑定依頼の事情を知った上で快諾していただけました。
2009年8月6日に里沙さんの自宅において、2時間40分に及ぶポリグラフ検査が実施されることになりました。
①ポリグラフ検査の内容
ポリグラフ検査の対象は5件の鑑定事項でした。そのうち2件は「タエの事例」についての情報入手経緯・時期の記憶に関すること、2件はネパール語の知識に関するもの、残り1件はネパールの通貨単位ルピーに関するものです。
その検査内容の概要を手元にある鑑定書から拾い出して紹介します。
鑑定事項1 「タエの事例」に関する事前の情報入手経緯は左のどれか?
ラジオ・テレビ等の番組を通じて。 インターネットなどで。 新聞記事・パンフレット類で。 本・雑誌類で。 人から聞いたり教わることで。
鑑定事項2 「タエの事例」に関する事前の情報入手時期は左のいずれか?
保育園・小学校の頃。 中学生の頃。高校生の頃。 女子大生のころ。 独身で働いていた頃。 結婚して以降。
鑑定事項3 「隣人」を意味するネパール語は左の何れか?(該当はchimeki)
tetangga(テタンガ) chimeki(チメキ) vecino(ヴェシーノ) jirani(ジラニ) najbaro(ナイバロ)
鑑定事項4 息子を意味するネパール語は左の何れか?(該当はchora)
chora(チョラ) filo(フィロー) hijo(イーホ) nmana(ムワナ) anak lelaki(アナク レラキ)
鑑定事項5 ネパールの通貨単位は左の何れか?(該当はルピー)
レク ルピー クワンザ ダラシ プント
上のような一から五の鑑定事項の質問に対して示された一つ一つについて、被鑑定者は記憶があっても、「いいえ」「分かりません」とすべてについてノーの回答をすることがルールです。
このルールに従って一つの回答につき十数秒間隔で質問し、このときの生理的諸反応を記録します。
一系列の質問が終わると2分休憩し、その間に内観報告(内省報告)をします。
同様の質問をランダムに3回程度繰り返します。
被鑑定者は肯定に該当する回答に対して毎回否定の回答しなければならず、つまり、毎回嘘をつくわけで、この嘘をついたときの特異な生理的諸反応が計器に記録されるという仕組みになっています。
ネパール語の鑑定事項3・4に関しては、次のような慎重な配慮のもとに単語が選ばれています。
本検査前に、セッション中に使用されたネパール語12単語を抽出し、その記憶の有無を事前検査して、覚えていた単語は本検査の回答から外すという慎重な手続きをとってあります。
里沙さんが、セッション中に使用されていたネパール単語で本検査前にも記憶していた単語は、九つありました。これらの単語を除き、セッション中に使用されたにもかかわらず、彼女が覚えていないと答えているネパール単語3語のうち2語、chimekiと choraが鑑定用単語に選ばれています。なお、鑑定事項5「ルピー」という単語は、セッション中には使われていない単語です。
(つづく)
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