(その11からのつづき)
⑧ラタラジューの実在証拠について
語り内容のうち、残る最後の検証は、ラタラジューのナル村村長としての実在証明ということになります。
ナル村で現地聞き取り調査をし、100年程度前の村長ラタラジューの記憶を持つ子孫あるいは住民を発見することです。
ラタラジューは自分を文盲だと語っていますから、自身が記録を残していることはあり得ないことになります。
また、文盲率の高いナル村民が彼の記録を文書として残していることもほぼ絶望的ですから、子孫または古老の記憶に頼るしかありません。
あるいは、ナル村を統治した地方首長などが、文字記録として残しているものがあればそれを発見することです。
この検証調査こそ、ネパール在住ソバナ博士に依頼した最大の目的でしたが、残念ながら現時点ではラタジューの実在を確認するには至っていません。
ソバナ博士によれば、ネパールは1950年代以前の戸籍の記録はない社会であり、加えて1995年~2005年にかけて山村・農村の住民による反政府武装闘争が勃発、ナル村でも役場に保存されていた多くの個人情報の資料が焼かれたということです。
したがって、ナル村役場には村開発の企画書と投票者名簿以外の文書資料はなく、残りの資料は担当者が個人の家に持ち帰り散逸してしまっているので、資料からの調査は不可能な状態であるということでした。
また、34名の村の古老に聴き取り調査をした結果でも、ラタラジューおよび、その妻ラメリなど家族を知る確かな証言は得られなかったということでした。
聞き取り調査での証言の信頼性が保証されない理由として、みんな自分がラタラジューの子孫だと言いたがること、調査に協力すると何らかの利得があると思い込んでいるので嘘の情報を語っている可能性が疑われるからだということでした。
ただし、聞き取り調査の収穫がまったくなかったわけではありません。
38年前に80歳で死亡しているラナバハドゥールという長老は、若い頃には兵士であり、その後村に戻り、晩年はタカリ(長老)と呼ばれ、村の指導的存在だった、という確かな情報がその孫に当たる村民からの聞き取り調査で得られています。
つまり、ラタラジューの生涯に酷似した人生を送ったタマン族青年が実在していたということです。
この事実は、ラナバハドゥールが、青年時代を兵士として送った村長ラタラジューを知っており、それに倣って自分も兵士となり、その後帰村してラタラジューのように村の長老になったという可能性を示唆しているかもしれないからです。
つまり、ラナバハドゥールという人物の実在は、それと酷似した人生を送ったと語っているラタラジューが実在していても不自然ではないことを示しています。
前世人格ラタラジューは、ナル村に関する語りの具体的事実に食い違いがないこととも相まって、その実在が濃厚であるかのように思われます。
(つづく)
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