2012年1月25日水曜日

筆者の催眠研究歴その5

(その4からのつづき)
(5)初めての前世療法の実際
以下は亜由美(仮名)さん19歳におこなった初めての前世療法のセッション記録です。
その4で述べたように、亜由美さんには前世療法を試すことについて告知をしていません。
また、事前の聴き取り調査において、彼女には前世療法についての知識は皆無であり、前世や魂の実在は一切信じていないと断言しています。
TH:もし、あなたに、今の人生の他にも別の人生があるとしたら、そこへ戻ってみましょう。
これから、三つ数えると美しい10段の階段が見えてきます。その先にはドアが見えます。
ドアの隙間からはまばゆい光が漏れています。ドアの向こうは、時間も空間も超越した光の世界が広がっています。そこでは、時間や空間を超えて、自由にどこにでも行くことができます。そうして、あなたの過去の人生で経験したことで、今の亜由美さんのリストカットの原因になっているようなことがあれば、何でもはっきりと思い出すことができます。
では、ドアまで階段をゆっくり降りていきましょう。1・2・3・・・・・・10。  
さあ、ドアの前まで降りてきました。あなたは、ドアのノブを持って、ゆっくりドアを開いています。光があなたを包み込んでいます。さあ、光の世界へ一歩踏み込んでいきましょう・・・・・・。
今、あなたは、どこで何をしていますか? はっきり分かりますよ。私にお話ししてください。
亜由美さんは、能面様の無表情のまましばらく沈黙していました。その後の彼女の語りは、驚くべき内容でした。魂も前世の存在もまったく信じない、と断言していたにもかわらず、彼女は真っ先に魂状態の記憶を語り出したからです。

TH
: さあ、今、どこで何をしているかお話できますか? できるならお話してください。

CL
: 白く輝く、雲みたいに輝く光の中にフワーっと漂っています。 

TH
: あなたの身体はどうなっていますか? ありますか?

CL
: ありません。

TH
: 身体がないなら、あなたはどんな姿なんですか?

CL
: 光みたいです。

TH
: 光みたいな状態で、意識だけがあるのですか?

CL
: はい。

TH
: そういう状態は、魂と呼んでいいのですか?

CL
: はい。

TH
: それでは、魂になってその光の世界に来る前の人生に戻り、現世の亜由美さんの苦しみの原因を作っている場面に戻りますよ。はい、一・二・三。さあ、今、どこで何をしていますか? 

CL
: 厚手の絨毯(じゅうたん)の敷かれた部屋にいます。黒のロングスカートに、宝石が縫いつけてあるシルクの白いブラウスを着ています。部屋の家具の取っ手は、装飾を施した高価な家具です。私の眼の色は緑色で、髪は金髪を結い上げています。私は42歳、お金持ちですが、美人ではありません。自分の名前・国籍、今の年号は分かりません。ただ、窓の外をみると、自動車と馬車が走っているのが見えます。となりには、恋人である男性が座っています。その恋人が、突然ピストルで私の左胸を打ち抜きました。私は、訳も分からず突然恋人に殺されたのです。この恋人の、理不尽な行為を絶対許すことはできません。
こうして彼女は、裕福な生活をしていたらしい42歳の西洋の女性として生き、恋人に突然射殺された人生を想起しました。
国名・年号、自分の名前などを具体的に思い出すことはできませんでした。
彼女は自分が殺害された理由が知らされないままに、理不尽に命を落としたのでした。
そして、そうした、恋人であった男性の裏切り行為がどうしても許せないと語り、同様に現世の夫の裏切り行為もどうしても許すことができないのだ、と語りました。
この初回セッションで、現夫への過剰な怒りの理由が前世人格からの影響を受けていたことを洞察し、しかし、夫に嫌われたくないという葛藤からリストカットに走っていること、その葛藤によって記憶を抑制していたことを理解できたことを境に、リストカットの回数が減少に向かいました。
亜由美さんへの前世療法は、その後4回ほど続き、リストカットがなんとか治まったところで終結としました。 
彼女の場合、普通は思い出せる催眠中の記憶が、抑制されて覚醒後にほとんど思い出せません。
全セッションにはご両親の同席をお願いしましたが、セッション中に語られた内容は筆者が許可するまで、明かさない約束をしておきました。
最終セッションを終えた後、各セッションのおおまかな内容を説明をすると、彼女は激しく動揺し、筆者に嘘をついた、申し訳ない、と言い残して自分の部屋に籠もっしまいました。彼女が落ち着きを取り戻してところで説明を再開して事情を聞いてみました。
動揺したわけは、通常の意識ではまったく信じていない魂や前世であるのに、それを催眠中に語ったことへの驚きと、自分が嘘を語ったに違いないという罪悪感から自己嫌悪に陥ったからということでした。 
しかし、催眠中に意図的に作り話をすることは考えにくいこと、勝手に口が動いて話してしまう自覚があったことなどから、やはり語ったことは意図的な嘘ではないだろうと納得したようです。 
また、納得した大きな理由が、ピストルで左胸を打ち抜かれて殺害された前世記憶を想起したことを境に、幼少から断続的に起きていた心臓の痛みが不思議にもピタリと消失してしまったことでした。
この事はご両親にも確認しましたが、彼女は幼少から心臓の痛みを度々訴えるので、何度も医師の診断を仰いできたけれども、特に所見がないということでこれまで経過してきたとのことした。
このようなことが作り話で起こるとは考えられないと彼女は納得できたようです。
(つづく)

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