SAM催眠学序説 その119
見做し人格インナーチャイルドとのセッション逐語録
ここに紹介するのは、「インナーチャイルド」と呼ばれている、「クライアントの大人の人格に内在していながら、成長から取り残された別人格である子どもの人格」との対話の逐語録です。
インターネットで インナーチャイルドを検索しても、明確な定義をしているサイトはないようです。
「自分の中にいる傷ついた小さな頃の自分」「子どもの頃の記憶や感情」というおおざっぱで曖昧な言い方でまとめるしかないようです。
ちなみに、『心理臨床大事典』培風館,1999、『精神分析事典』新曜社,1995を検索しても、「インナーチャイルド」の項は出てきません。明確な定義がないということです。
したがって、「インナーチャイルド」は、アカデミズムで認められている心理学用語ではないようです。
インナーチャイルド療法遂行のうえで肝心なことは、小さな頃に傷ついた「記憶・感情」などの総体であるのか、傷ついて苦しんでいる小さな頃の「人格」そのものであるのかが、はっきり定義されていることです。
療法の対象であるものの定義に基づいて作業仮説が構築され、その仮説によって採用する適切な技法が選択されてこそ、みのりある改善効果を見込むことができると考えるのがSAM前世療法の常道です。
SAM催眠学では、これまでの催眠臨床で確認されてきた「意識現象の事実」の累積にもとづき、SAM前世療法において、療法の対象とする「インナーチャイルド」を次のように明確な定義をしています。
インナーチャイルドとは、「耐えがたい悲哀の体験をしたために傷つき、その苦痛から逃れるため、大人の人格へと成長していく本来の人格から分離(解離)され、 取り残された子どものままの残留思念の集合体であり、意志を持つ別人格としての属性を備えたもの」である。
こうした悲哀を抱えているインナーチャイルドの存在は、成長し大人になっている人格がそれを直視して生きることの苦痛のために、大人の人格の潜在意識下に抑圧され、内在していると考えられます。
したがって、顕在意識下ではインナーチャイルドの存在が、はっきり自覚されることはなく、深い催眠状態に至って、つまり潜在意識の蓋を開けないと顕現化しないということになります。
また、悲哀を抱えている幼子が、成長することを拒否し、成長していく人格から分離し、自らの意志でインナーチャイルドになることを選択したとは考えられません。
そのような悲哀の苦痛を抱えたままの状態で、自ら成長することを拒否し、インナーチャイルドとなって留まることに合理的理由がないからです。
こうして、SAM前世療法においては、療法の対象とするインナーチャイルドを、成長し「大人となった人格」に内在しているが、別人格として振る舞っている、傷ついた「子どもの人格」だと見做して対処しようとします。
したがって、インナーチャイルド人格は、どこまでもセッションをおこなうための仮定としての「見做し人格」であり、「作業仮説」上の仮定の存在です。
そして、仮定としての「傷ついたまま取り残されているインナーチャイルド」を癒やし、本来一つであるべき「成長している大人の人格」に統合することをセッションの目的とします。
その結果、インナーチャイルドによって引き起こされている不都合な心理的諸症状が改善される、というのがSAM催眠学による「インナーチャイルド療法」の治癒仮説です。
こうした作業仮説によっておこなった「インナーチャイルド療法」は、まだ6事例でしかありませんが、症状の改善にすべて成功しています。
そしてまた、先に提示したような、インナーチャイルドを、明確に「人格」(正しくは人格の属性を帯びた意識体)として定義し、こうした作業仮説に基づくインナーチャイルド療法を、私は他に知りません。
インナーチャイルドは、解離性同一性障害(多重人格)における副人格的存在とも言えますが、インナーチャイルド人格を、主人格が創出した架空の人格であるとは考えません。
さて、私あて第8霊信(2007年1月20日1:01受信)は次のように告げています。
「あなたは、すべては『意識』であると理解していた。ことばとしての『意識』をあなたは理解している。だが、その本質はまだ理解には及んではいない。あなたが覚醒するにしたがって、それは思い出されるものとなる」
この霊信から10年を経て、私は「意識の本質」の一つとして、「強力な思念(意識)の集合体は、一個の人格としての属性を帯びた意識体になる」と考えるようになっています。
この仮説をSAM催眠学では、「残留思念仮説」と名付けています。
「未浄化霊」然り、「生き霊」然り、「インナーチャイルド」然りというわけです。
また、解離性同一性障害(多重人格)における「副人格」の存在も、「残留思念仮説」で説明可能であろうと考えています。
ただし、 解離性同一性障害における副人格と、主人格との間には意志の疎通(つながり)はない、とされています。
私の唯一の解離性同一性障害改善のセッションでもこのことは確認できました。
しかし、インナーチャイルドと現世人格との間には意志の疎通(つながり)があることが、ここに紹介するセッション逐語録では明らかになっています。
だからこそ、インナーチャイルドの悲哀と苦痛が現世人格に悪影響を生じさせることになると考えられます。
ここに紹介するクライアントA子さんはリピーターであり、最初のセッションで前世が存在しない、つまり、生まれ変わりをしていないことが分かっています。
これまでにA子さんのように、生まれ変わりをしていない魂の持ち主は、20人を越えています。
そのことがなぜ分かったのか。
私あて第17霊信(2007年1月28日23:50受信)によれば、
「あなた(注:現世の稲垣)という存在も魂の側面(表層)の者であり、すべての側面(表層)の者は友であると理解しなさい」
と告げているので、これによれば、A子さんの魂表層には「現世の者」が必ず存在しており、現世の者には、魂表層に同居している友である、他の前世の者の存在が分かるはずだ、ということになります。
ところが、A子さんを魂の自覚状態まで誘導して、魂表層の前世の人格を呼び出そうとしても誰も顕現化せず、そこで魂表層に必ず存在している「現世の人格」を呼び出して尋ねたところ、「魂表層には前世の者はいない」と回答したというわけです。
さて、30代後半のA子さんの主訴は、原因がよくわからない自信の欠如と生きづらさ、そして、死にたくなるような深い抑鬱状態の改善でした。
抑鬱状態の直接のきっかけは、職場の人間関係のトラブルだろうが、もっと深いところに何か原因が潜んでいるような気がする、ということでした。
生まれ変わりをしていないので、A子さんの抑鬱状態に深いところで関わっている存在に「前世の者」は除外できます。
したがって、考えられる存在は、インナーチャイルド、あるいは生き霊、ご先祖の未浄化霊などです。
SAM催眠学では、インナーチャイルドは魂表層の「現世の者」に内在しているという仮説を立てています。
したがって、手続きとして、まずは魂の自覚状態まで誘導し、魂表層に存在している「現世の者」を呼び出します。
次に「現世の者」の「人格内部に存在(内在)しているインナーチャイルド」が、呼び出しに応じて顕現化しなければ、そうした存在はいないと判断します。
この、見学者1名同席のセッションは、音声記録が録音されていましたので、SAM催眠学研究の資料としてA子さんに公開許可をいただき、ここに逐語録を公開することができました。
A子さんにはあつくお礼申しあげます。
以下のセッション逐語録は、催眠誘導(魂遡行催眠)により「魂状態の自覚」まで到達確認後の対話です。
・・・・・・・・・・・・・・・・(セッション開始)
稲垣:じゃあ、いいですか。魂表層にはね、生まれ変わりをしていれば前世の者たちがいますが、あなたが、生まれ変わりをしてないということが分かっていますからね。でも、「現世の者」は必ずいるはずです。三つ数えたら現世の者出ておいでなさい。現世の者に尋ねたいことがありますからね。じゃあ三つ数えます。一つ、二つ、三つですよ。あなたは現世の者ですか?
A子:うん。うん。
稲垣:違うかな? どなたか憑依していらっしゃるの? 現世の者ですか?
A子:うん。
稲垣:じゃあね、現世のあなたの中に、インナーチャイルドと言ってね、幼い頃のなにか深い悲しみがあって、その悲しみにとりつかれて、大人のあなたが分離してね、幼いままで今も生きていて、その苦しみを訴えているものがいるかもしれない。インナーチャイルドと呼んでいます。もしインナーチャイルドがいて、そして、そのインナーチャイルドが持っている苦しみを、大人になったあなたにね、訴えているとしたら、あなたの、何をやっても自信が持てないという状態を作り出している可能性があるので、ちょっとそれを調べます。三つ数えますよ。現世のあなたの中にね、インナーチャイルドが、もし、いるなら、出ておいでなさい。そして、自分の苦しみを語ってください。 三つ数えますからね。一つ、二つ、三つです。あなたは、インナーチャイルドと呼ばれている、幼い頃のA子さんですか? どうでしょう。
A子:うん? ちがーう。
稲垣:違います?
A子:うーん。
稲垣:違うの?
A子:ちがーーーう。
稲垣:なんか、おもしろくないね。
A子:違うー。
稲垣:違うの? あなたインナーチャイルドじゃないですか?
A子:分からないーー。
稲垣:分からない?
A子:(幼い子供のような口調で)分かんない。
稲垣:でもねあなたのね、今の口調はね、幼い頃のあなたのはずですよ。
A子:分かんない。
稲垣:あなたは、幼い時に、お母さんにどうしても認めてもらえないようなことで、苦しんでいるんじゃないですか?
A子:知らなーい。
稲垣:えっ? 知らない。
A子:はい。
稲垣:でも悲しい思いをしているはずですよ。
A子:よく分からない。
稲垣:よく分からないの? でも、あなたがこうやって出てこられたということはね、本来なら成長してね、この大人のあなたと一つになっていないといかんのに、あなたは、成長していく、そういう現世の人格から切り離されてね、分離しちゃってるんですよ。で、一人ぼっちになっちゃってる。で、苦しいから訴え出る…。
A子:うーうん、分かんない。
稲垣:えっ?
A子:分かんない。
稲垣:分かんないでしょ。分からないということは、本当は自分のことが、そうやって苦しんでいることを、よく分かってないそういうことです。
A子:うーん。
稲垣:でもあなたは、幼い頃のあなたですから、はっきり分かるでしょ。
A子:お母さんのことも知らなーい。
稲垣:お母さんのことも知らない?
A子:なんにも知らなーい。
稲垣:えっ?
A子:なんにも知らない。
稲垣:嘘でしょう。知らないふりをしているだけです。
A子:知らなーい。
稲垣:そんなことはありませんよ。あなたは多分、お母さんからね… 。
A子:お母さん、知らない。
稲垣:知らないはずがない。だって、あなたはお母さんから産まれているんだもん。あなたを産んだお母さんを知らないって、あなたはそうやって拒んでるだけです。お母さんをね認めることが嫌なんでしょ。
A子:知らない。
稲垣:でなかったら、知らないなんてどういうことですか。
A子:うーん、なんにも知らない。
稲垣:そういうことにして、お母さんから、認めてもらえないことをあなたはね、それを認めたくないということでしょう、きっと。違いますか? よーく考えてごらんなさい。
A子:分からない。
稲垣:悲しいことですからね、お母さんから認めてもらえないってことは。
A子:分からない。
稲垣:えっ?
A子:悲しいのも分からない。
稲垣:分からないの? そうやってあなたは自分の心をね、麻痺させてね、そして、多分、悲しみに耐えてきたんだろうと思うよ。よーく考えてごらんなさい。
A子:なんにもない。
稲垣:なんにも思わないの?
A子:なんにもない。
稲垣:なんにもない? なんにもなかったら、あなたが大人のあなたと分離してしまうはずがないでしょう。あなたはインナ-チャイルドになっちゃったんだから。
A子:知らなーい。
稲垣:(笑いながら)自分がだれなのか、知らないことなんてないよ。
A子:分かんない。
稲垣:分かんない? うん。でもあなたは大人になっていく、本体と言ったらいいのかな、大人になっていくあなたとは、別個になっちゃってるってことが分かりませんか? だからこうやって、私が呼びかけたから出て来たんですよ。
A子:なんにも分かんない。
稲垣:じゃあ分かるようにしましょうか。きっと分かるようになるよ。
A子:(小さな声で何か話しているが聞き取れない)
稲垣:じゃあ、いいですか。私があなたの額に手を当てます。ここは前頭葉と言われますよ。そこにはね、あなたの記憶がしっかりと幼い頃も含めて、蓄えられています。海馬という部分に蓄えられていると言われてますからね。これからゆっくり10勘定して、海馬 の記憶を… 。
A子:やだ、やだ、やだ、やだ。
稲垣:うん?
A子:やだ、やだ。
稲垣:嫌じゃない。
A子:やだ。
稲垣:そうしないと、あなたは救われない。
A子:(ぐずり始める)思い出したくなーい。やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ。(ずっとやだを言い続ける)
稲垣:嫌じゃないよ。やっぱりそれくらい思い出したくない、悲しみがあるんでしょ。
A子:やだ、やだ、やだ、やだ、あ-ーー。(苦しそう)
稲垣:でもね、苦しいけどね。
A子:(苦しいが声を出そうとしている)やだ、絶対やだー! やだ、やだ!
稲垣:直面化と言いますよ。
A子:(苦しそう)はあ、はあ、うーーーー。
稲垣:じゃあ、そんなにね、体がね、じっとしていられないほど嫌なことなんでしょう。じゃあ、これだけ認めなさい。あなたは本当はお母さんに認めて欲しかったんでしょう。
A子:(泣き出してきっぱりと)お母さん嫌だ! お母さん嫌だぁーーー。
稲垣:嫌でしょ。その悲しみをあなたはね、あまりにも強かったんでね、成長していく自分からね、切り離されて苦しんでいるんですよ。(苦しそうな声がする)だからあなたは…。
A子:(叫ぶ)思い出したくないのに、もう! うーーー。はあ、はあ、はあ、はあ。
稲垣:じゃあ、もう今日は、そういうことするのはやめよう。あなたが余りにも苦しいから。でも、あなたは癒される必要絶対ありますよね。
A子:分かんない。
稲垣:分かんないことない。だって、このままでいつまでもね、分離した状態でね… 。
A子:やだ、やだ、なんにもやだー。
稲垣:その苦しみを、大人のあなたに訴え出るから、大人のあなたはね、苦しんでいるんですよ。自信が持てなくて。その一番の原因は、あなたがね多分作っていると思うよ。
A子:(弱々しく)知らない。
稲垣:本当ならね娘だから、お母さんはあなたを可愛がってね、認めてくれないかんわけです。
稲垣:本当ならね娘だから、お母さんはあなたを可愛がってね、認めてくれないといかんわけですよ。それが多分なかったんだろうと思う。それを思い出したくないくらい辛い思いだからね、そんなこと無かったことにして、今まであなたは、誤魔化してきたんです。でも、誤魔化しきれないから、苦しみはね、大人になっているあなたに伝え続けたはずですよ。 一人で寂しいから。本来あなたは、大人の自分と一つにならないといかんのです。
A子:(悲しそうな小さな声)分かんない。
稲垣:分かんないことはない。そうに決まっていると私は思っているよ。大人の自分と一つになるためには、あなたが癒されないといかんの。ね、癒して欲しいでしょう。
A子:(悲しそうな小さな声)分かんない。
稲垣:分かんない? ま、すべて分かんないで誤魔化しちゃ駄目よ。
A子:(悲しそうな小さな声)でも分からない。
稲垣:私には分かってます。誤魔化せませんよ。だからあなたを癒そうと思う。ね。そして、あなたが癒しを得たら楽になるはずです。そしたらね、もうこんなふうに一人ぼっちでね、切り離されて苦しむことはやめて、大人のあなたと一つになれるはずですからね。ヒーリングっていう手を使いましょう。これからあなたをヒーリングしますよ。あなたを管理しているのは心です。心は心臓を中心として広がっているって言いますからね。これから心臓の前にある心からね、エネルギーをあなたに直接繋ぎますよ。そして、癒しが 起こることを待ちますからね。待ってくださいね。じゃあこれから、あなたに直接癒しのエネルギーを繋ぎます。いいですね。
A子:うーん。
稲垣:楽になってくるのきっと分かりますよ。やっぱりね、私の手から出る癒しのエネルギーがね、相当強いものが出てることが分かりますから、やっぱり傷ついているわ。傷つかなきゃ、こんなふうに分離するはずないからね。それはね、あなたには分からないかもしれないけど、精神医学ではね、解離性同一性人格障害とか、多重人格ってのがあるんですよ。多重人格は、苦しんでいる、そういうね、人格がその苦しみをね、自分じゃない別の人間が苦しんでいるっていうふうに、強く思ったために、別の人格が出来上がっちゃった、そういう現象です。インナーチャイルドのあなたも、それと同じような原理ですよ。あなたの場合は、架空の人格でなくって、成長していく大人になっていくそういう人格が、あなたを切り離したんです。そうしないと生きていけないから。辛いままではね。だからあなたは辛い子どものままでね、成長して大人になっている人格から切り離されてね、分離しちゃってる、そういう存在です。悲しいですね。でも、一人ぼっちでは耐えられないから、苦しみを大人になってるあなたに伝えているんですよ。本来の大人のあなたに、一つになってもらわないと困るわけ。統合と言います。そのためには、あなたが癒されないとね、大人の自分と一つになれないというわけです。そのために今癒していますよ。分かりますでしょ、楽になっていくこと。これ拒否することは出来ませんよ。だってこのエネルギーは、私のエネルギーじゃないもの。神様からのものだと言われていますからね。拒否すると、神様に叱られますよ。今、相当強いエネルギーが出ているので、あなたがどれくらい今まで苦しんでいたか、よーく伝わってきますよ。いくらあなたが隠しても、このエネルギーの出方でね、ばれちゃっていますよ。
A子:分かんない。
稲垣:あなたは、そう言って誤魔化し続けて生きてきたんだよね。分かんない、と言わないと生きていけないからな。親から、特に母親からね、認めてもらえないことは、幼い、ちっちゃい子にとってはとても辛いことですよ。あなたは、その辛さを誤魔化して生きてきたということです。あなたというより、大人になっているあなたが、誤魔化してきたんだよな。そのために、あなたを切り離しちゃったんですよ。でも、切り離されたあなたこそ大変だよね。苦しみを持ったままでねずーっと、大人になっているあなたの中でね、生き続けていくしかなかったわけ。それも今日でお仕舞いにしたいと思っている。あなたが、癒しを得たら、大人の自分と一つになってくださいね。楽になってきません?
A子:分からない。
稲垣:分からない、ばっかりだ。結構あなたは、わがままだな。分からない、で誤魔化されませんよ。こちらは私の手の平はちゃんと伝えてるんだもん。
A子:でも分からない。
稲垣:分からないでもいいです。ちゃんとあなたを癒していますから。癒していることはきっと分かるはずだよ。これ分からなかったら神様に対する冒涜ということだよ。
A子:そうなの。
稲垣:うん。
A子:でも分かんない。
稲垣:分からない、ということにしとこう。こっちは、分かっていますからね。誤魔化しは効きません。
A子:ふーん。
稲垣:ひょっとしてあなたは、案外お母さんに対して、素直でなかったかもしれんな。分からない、分からないと言って、お母さんに逆らったから、お母さんもあなたのことを認めようとしなかったかもしれない。余計悲しくなってね、またお母さんに何聞かれても、分からない、分からないって逆らったかもしれんと思ってる。
A子:分かんない。
稲垣:それも分からない。もういい加減にしとかないと、いかんね。もういいよ。どちらにしてもね、あなたを癒し終えたらね、大人になっているあなたに一つになれるはずですよ。そしたら、もうあなたの苦しみは消えます。一人ぼっちは辛いからね。
A子:分かんない。
稲垣:特に自分が認めてもらえない、お母さんから認めてもらえない、というのは辛いことですからね。もう少し、うん、大体時間がきたみたいだよ。どう? さっきより楽になったんじゃないですか?
A子:(甘えたような声)分かんない。
稲垣:(笑いながら)また分かんない。にこっとしながら分かんないって言ったって、ばれますよ。本当はあなたは癒されたはずだよ。
A子:分かんない。
稲垣:またそう言っている。相当頑固だし、どうもあなたはちっちゃい頃からちょっと頑固でね、母親から見ると可愛くない子だったかもしれんね。だから、それをあなたは、ちゃんと敏感に、もともとあなたは感性が非常に優れているから、お母さんのそういう自分に向けられた気持ちが、よーく分かっちゃうから、余計悲しくなっちゃたんだね。でも、悲しいことを認めるのは嫌だから、分かんないと誤魔化してきたんだよ。どうですか、もう 大人になっているあなたと一つになってくれますか。そうするとね、大人になったあなたあなたは、あなたがね… 。
A子:(甘えたようなゆっくりとした話し方で)分からない。なんで苦しんだのかも分からない。
稲垣:それはお母さんに認めて欲しくても認めてもらえなかったから。
A子:そうなんかなー。
稲垣:それより他に思い当たること分かりません?
A子:なんか一杯あった気がする。
稲垣:あったでしょ。一杯あったはずです。
A子:だから、どれが原因か分からない。
稲垣:あー、それが分からないってことやね。それは全体としてでしょう。全体として自分がね、お母さんが認めてくれなくて、どちらかというと嫌われているかもしれんていう悲しみを味わったはずですよ、一つ一つのことについて。そういう悲しみがあった。
A子:うーん。思い出せない。
稲垣:まあ、特に思い出す必要ないでしょう。
A子:ふーん。
稲垣:今あなたが、癒されればそれで済むことですからね。
A子:でも癒されたとか、分かんない。
稲垣:分かんない? でも癒されたはずだよ。
A子:ふーん。
稲垣:これで癒されなかった人は誰もいないよ、今まで。
A子:そうなの。
稲垣:前世の者だって癒されたって言うんだもん。
A子:知らない。
稲垣:(笑いながら)知らないでしょうね。あなたに、前世ないんだもん。でも、癒されたことは間違いないと思うよ。だって、もう大分表情がね穏やかになっているからね。
A子:ふーん。
稲垣:楽になったはずだよ。
A子:そうなの?
稲垣:うん。癒されたっていう言葉を使わないなら、気持ちがとてもね楽になった。
A子:ちょっと分かんない。
稲垣:えっ?
A子:ちょっと分かんない。
稲垣:(笑いながら)口癖だなそれ。
A子:分かんない。
稲垣:小さい時からそう言い続けてきてね、それで自分をね、慰めてきたんだと思うよ。
A子:ふーん。
稲垣:うん。素直に認めたりしたら、それこそ辛いからね。
A子:ふーん。
稲垣:だから、分かんないって言っては、誤魔化してきたんだと思う。
A子:ふーん。
稲垣:もうあなたは癒されたはずですから、大人のあなたと一つになれるはずですよ。
A子:ふーん。分かんないなぁ。
稲垣:うん?
A子:分かんないなぁ。
稲垣:今のままじゃあ変わらないの。
A子:なにか変わりたいって思ってない。
稲垣:そうか、あなたが変わりたいって思うことによってね、大人のあなたと一つになるっていうことですよ。
A子:ふーん。なにそれ。
稲垣:うん?
A子:なにそれ。
稲垣:なにそれって、今あなたは、幼い子どものままのはずですよ。
A子:えー?
稲垣:うん。大人じゃないんだもん。でも本当のあなたは、もう大人になっているんだよ。
A子:そうなの?
稲垣:とても魅力的なね、スタイルを持った大人。
A子:いや、無い、無い。
稲垣:うん?
A子:無い、無い。
稲垣:無い?
A子:うん。
稲垣:なにが?
A子:そんな大人になってない。
稲垣:大人になりたくないの?
A子:違う。そんな良い大人になってるはずがない。
稲垣:それはねお母さんから埋め込まれたからだよ。いつもあなたは多分駄目な子ね、みたいなことを言われ続けたんじゃないかなと思うよ。
A子:そうだよ。
稲垣:そう言われ続けたでしょ。
A子:うん。
稲垣:それ言われ続けてきたから、本当の自分をね、歪んだ目でしか見られなくなっちゃたんだけど…。
A子:(大きな声になる)でもお母さんが言ってること…。
稲垣:えっ?
A子:(急に怒り出し、きっぱりと)お母さんの言ってることは正しいんだから間違ってないの!!
稲垣:ふふん。それが子どものね、愚かさと言ったらいいのかな。それはまあ、ちっちゃいあなたにとっては、お母さんは絶対の存在だからね、間違って… 。
A子:(泣きながら叫ぶ)お母さんの言ってることは、絶対に間違いないんだから! やなこと言わない!!
稲垣:そんなことはありません。やっぱりそうだな。あなたはお母さんに認めて欲しかったんだよね。でも、お母さんは認めてくれなかったんだよね。そういうことだな。で、お母さんが認めてくれなくて、あなたは駄目な子みたいなことを言われたけど、それでもお母さん は絶対正しいからって、あなたは思い込んできたんだよね。お母さんが間違ってるって思うことは誰だって悲しいもんね。だから、あなたはね、大人になっていくことが出来なくて、切り離されちゃったんだよ。
A子:(泣きながら弱々しく)お母さんの言ってることは絶対なんだから、お母さんの言うことは聞かないといけないんです。
稲垣:いや、絶対はありません。
A子:(泣きながら)だって、お母さんの言うこと聞かないと、どんどんお母さんに嫌われ ちゃうから。
稲垣:お母さんがなに?
A子:(泣きながら)お母さんにどんどん嫌われちゃう。
稲垣:そういうことね。
A子:(泣きながら)だから、良い子で、お母さんの言うこと聞いていないと駄目なんで。 はぁー、はぁー、はぁー。
稲垣:よく分かりますよ。そういう気もちはよく分かる。うん。でもね、私に言わせると、お母さんが間違っています。
A子:(泣きながら)お母さんが言っていることは正しいー。(泣きすすりの声)
稲垣:残念ながら違う。
A子:(泣きながら)お母さんが言うから、駄目なんだよね。
稲垣:多分、あなたが言っているお母さんの年齢はおそらくね、20代の半ばから30代ぐらいだと思うけど、私は70歳だよ。お母さんの倍ぐらい生きているよ。
A子:(泣きながら)でも、お母さんのほうが正しい。
稲垣:その私が言ってることと、お母さんの言ってることを比べてごらん。
A子:お母さん。
稲垣:経験が違うよ。
A子:(泣きながら)お母さんは、私のお母さんだから絶対なんだ。
稲垣:絶対はありません。大体ね、娘のことをね認めないなんていうお母さんは、間違っているよ。
A子:(泣きながら)でも、私のお母さんなんだもん。
稲垣:じゃあ、あなたが、間違ってることをしてたの?
A子:(泣きながら)分かんない。
稲垣:してないよ。分かんないっていうことは、してないってことだよ。あなたは、悪いことを何にもしてないのに、お母さんからこの子は悪い子だって。
A子:(泣きながら)でも、お母さんが悪いって言うから、悪いことしてるんだ。
稲垣:違いまーす。お母さんのほうが歪んでるの。
A子:(泣きながら)違う。お母さんは違う。
稲垣:そりゃね、娘のあなただから、お母さんのことを悪く言われたくない気持ちは分かるよ。
A子:(泣きながら)お母さんが好きなのに。
稲垣:明らかに間違っているよ。
A子:(泣きながら)お母さんは、なんにも間違ってなーい。
稲垣:間違っています。間違っているから、あなたがこんなふうに悲しくなって…。
A子:(泣きながら)違う。私が悪い子だから。
稲垣:大人に成り損なっているんだよ。
A子:(泣きながら)違う。
稲垣:違います。
A子:(泣きながら)お母さんは悪くない。
稲垣:悪い。悪いなそりゃ。うーん。
A子:(泣きながら)違う。私がいつも悪いから。
稲垣:いつも悪いはずがないよ。そんなふうにね、自分のことを責めてちゃ駄目だよ。 でも、もうお母さんもね、きっとそれは反省していると思うよ。
A子:(泣き声が変化)お母さんは反省しなくていい。
稲垣:うん?
A子:(しっかりした話し方に変化)お母さんは、いつも正しい。
稲垣:いつも正しいの?
A子:だから反省しなくていい。
稲垣:反省しないの?
A子:反省する必要はない。
稲垣:そしたらそれも間違っているな。子どもであるあなたをこんなふうに苦しめているんだからね。良い母親とは言えませんよ。
A子:でも、私が悪いからいいの。
稲垣:えっ?
A子:私が悪いからいいの。
稲垣:あなたは、そういうふうに自分を悪者にして、そしてね、お母さんは正しくて、立派な人だったと誰でも思いたいんだよね。だから自分を悪者にして、自分が正しいこと本当はやっているんだけども、お母さんが怒るからには、自分が悪いと思い込んできたんだよね。そういうあなたがね、大人のあなたと分離して、インナーチャイルドになっちゃったんだ。
A子:今はこのままでいたいんだ。
稲垣:駄目です。このままでいたかったら、大人のあなたと一つになりなさい。そして、もうあなたは、大人のあなたと一つになれば寂しいこともないし、一つになるから。
A子:寂しくないよ。
稲垣:うん?
A子:寂しくないよ。
稲垣:今でも寂しくないの?
A子:うん。
稲垣:寂しいから、でもね、あなたは誰かに、誰かと言っても、もう、訴える人は大人のあなたしかないんで、で、その大人のあなたが、苦しんでいるの。あなたが、そうやって訴え出るの。あなたが、そうやって訴え出ることを今まで知らずにいて、大人になっているあなたが、自信を無くしちゃってる。何やっても自分が悪いって、思い込んじゃっているの。そんなこと辛いでしょう。
A子:うーん、それは当たり前のことだ。
稲垣:違いますね。当たり前じゃないね。だってあなたは今、涙流しているじゃない。こんな悲しいことをあなたはね思い続けていて、それが良いとは絶対思えないね。
A子:でもそれが普通だ。
稲垣:普通ではありません。だって、ほとんどの人は、そんなインナーチャイルドなんて抱えていませんよ。
A子:ふーん、分かんない。
稲垣:分かんないことはない。私には分かるよ。だって、あなたよりも何倍か年取ってるからね、色んな経験踏んでいる。それでもそんな人、そんなにいないんだもん。
A子:うーん。
稲垣:そんなにいるはずないでしょう。
A子:そうなの?
稲垣:あなたが、分かんないっていうだけの話。
A子:ふーん。
稲垣:だから、もうあなたは、大人の自分と一つになってくれないといかん。
A子:まだ出来ない。
稲垣:出来ないことないです。出来ますよ。
A子:そうかなぁ。
稲垣:出来るねー。だって、今こうやってねあなたは涙をこぼしてね、それ難しい言葉でカタルシスって言うんですよ。浄化。
A子:ふーん。
稲垣:あなたは傷ついていてね、その傷ついた悲しみをね、涙にして外へ今流して出したから、浄化されていますからね、もう大人の自分と一つになることが出来ますよ。
A子:今日は… 。
稲垣:うん?
A子:今日は、まだしない。
稲垣:何で? 早くしたほうがいいよ。
A子:でも駄目。
稲垣:何でですか。
A子:分かんないけど駄目。
稲垣:またー分かんないが始まったなー。それならいつかは、今日は駄目でも。
A子:うん、いつかなら、いいよ。
稲垣:うん?
A子:いつかなら、いいよ。
稲垣:いつかなら、いいの? これから一週間ぐらいで… 。
A子:駄目。
稲垣:一つになりなさい。
A子:うーうん、まだ出来ない。もうちょっと、まだ駄目。
稲垣:もう少し時間が欲しいですか?
A子:うん。
稲垣:時間がきたら、時間が経って…。
A子:(甘えたような声で)そん時、またおじちゃんにやって欲しい。
稲垣:えっ?
A子:また、おじちゃんにやって欲しい。
稲垣:私に?
A子:うん。
稲垣:うーん。そんなこと言わずに、今日一つになってくださいよ。
A子:今日は出来ないの。
稲垣:ふふん。何で。
A子:うーん、なんか駄目って感じるから。
稲垣:うーん。曖昧な返事だな。
A子:うん。
稲垣:でももう、あれだね。
A子:でも、おじちゃんね。
稲垣:うん。
A子:少し、分かんないじゃ無くなったからね。
稲垣:あ、そうか。少し分かってきた?
A子:そう。だからね、もうなんかね、いいの。
稲垣:(笑いながら)いいのか。じゃあ、あまり、あなたに、あせって一つになることをね。
A子:うん。
稲垣:どうしても(聞き取れない)よくないかな。
A子:うん。今日はね、駄目。
稲垣:あなたのほうが納得してね。
A子:でもね、分かったからいいの。
稲垣:分かってきたのかな?
A子:うん。
稲垣:やっぱりあなたは、悲しかったに違いないし、苦しかったに違いないので、あなたより先に大人になっているね、大人のあなたに、そういうことをきっとね、訴えていたと思うよ。
A子:うーん。
稲垣:ね、悲しいし辛いし。私は駄目だからって。
A子:うん。
稲垣:だからそれが、大人のあなたに伝わっちゃってるんだよ。
A子:よく分かんないなー。
稲垣:うーん。だから大人になってるあなたは…。
A子:でも、今日は駄目なんだ。
稲垣:自信無くしちゃって、ね。
A子:「こいつ」が悪いから。
稲垣:えっ?
A子:「こいつ」が悪いからしょうがないね。
稲垣:「こいつ」?
A子:うん。
稲垣:「こいつ」って、(笑いながら)大人になってるあなたのことかな?
A子:そうだよ。
稲垣:やっぱり大人になってるあなたと、分離って分かるかな? 分かれちゃってるんだよね。離れ離れになちゃってる。皆そんなこと起こさないよ。
A子:そうなの?
稲垣:ずーっと一つで、大人になってるいくのが普通だけど、あなたはそこからね、大人になっていくのに乗り遅れちゃったんだよね。
A子:よく分かんない。
稲垣:悲しかったから、辛かったから。
A子:うん。
稲垣:それで今みたいにね、インナーチャイルドって呼ばれている、まあ別のね人格と言ったらいいのかな。子どものままでね、成長出来なくなっちゃってるってことかな。
A子:でも、「こいつ」は克服したって思ってる。
稲垣:あなたが一つになるのが克服だよ。
A子:違うんだ。「こいつ」自身が思ってるんだ。
稲垣:何で?
A子:うん? 自分は大丈夫って。
稲垣:大丈夫って? でもあなたがそうやって、また苦しまない限りは大丈夫だとは思うけどね。
A子:でも、「こいつ」は分かっちゃたんだ。
稲垣:何が分かったの?
A子:えー? こういう、私みたいなのが、いるってこと。
稲垣:あー分かったのね、きっと。
A子:うん。
稲垣:うん。
A子:だから、今日は、もうそれでいいみたいだよ。
稲垣:それでいいのか。でもあなたは必ずね、一つにならないかんよ。
A子:あーん。
稲垣:このまま一人ぼっちでね、大人になってるあなたが、「こいつ」か。
A子:うん。
稲垣:「こいつ」と分かれ、分かれになってて、一つのね、人格の中にいるってのは、普通じゃないよ。
A子:そうなのかなー。
稲垣:そうだよ。普通はね、一つになってるんだもん。
A子:ふーん。
稲垣:それであなたが、一つになればあなたは、大人のあなたから見ると、あなたは小さい頃の記憶という形になるわけ。今は記憶ではない。あなが生きているんだもの。あなたは一つのね人格なの。人格って分かりますか?
A子:なんとなく。
稲垣:うん。大人のあなたの人格とは別の、あなたのような子どもの別人格ってのを抱えちゃってるわけだから…。
A子:そうなのかなー。
稲垣:そういうのは異常だよ。本当は一つで、一緒に成長していかなきゃいかんのに、あなたは取り残されちゃったわけ 。
A子:そうなの、分かんない。
稲垣:うん。そういうことだよ。それがインナーチャイルドって呼ばれている。
A子:ふーん。
稲垣:あなたはインナーチャイルドなんだよ。
A子:ふーん。
稲垣:だから大人のね… 。
A子:なんか違うなー。違う。
稲垣:成長しているあなたと一つになって欲しいな。
A子:うーうん。
稲垣:うーうんじゃないの。一つにならないと、いかんの.
A子:そーう。
稲垣:今日はどうしても一つになれない?
A子:今日はだめー。
稲垣:駄目ですか。
A子:うん。
稲垣:うん。でも、もう一つにならないと、いかんことは分かっているね?
A子:それもまだよく分かんない。
稲垣:まだよく分からないの?
A子:うん。でも、分かんないだけじゃなくなった。
稲垣:うーん。やっぱり、大人のあなたと一つになるのが本当だということは分かる?
A子:それはまだよく分かんない。
稲垣:よく分からない? 一つにならないといかんのです。そんな離れ離れはおかしいんです。元々一つなんだもん。
A子:そう。
稲垣:元々あなたは、一つになってたんだよ。
A子:そうなの?
稲垣:そこから切り離されて、取り残されちゃったわけ。なぜかと言ったら、子どものあなたが、あまりにも悲しい思いをし過ぎたから。
A子:そうなのかなぁ。
稲垣:耐えられないからね。そうなんだよ。
A子:ふーん。
稲垣:だから、もう大人になっているあなたと、一つになって欲しいってわけ。
A子:好きなものが欲しい。
稲垣:えっ?
A子:好きなものが欲しい。
稲垣:好きなもの?
A子:ずっと分かんないばっかで、辛かったから、好きとか嫌いが欲しい。
稲垣:好きとか嫌いか。欲しいってどういうこと、どうすればいいの?
A子:分かんないじゃない気持ちが欲しい。
稲垣:あー、分かんないじゃない気持ちか。それは簡単なことで、思ったことを思った通り口に出せばよろしい。
A子:うーうん。
稲垣:嫌なものは嫌。
A子:分かんないんだ、それが。
稲垣:うん?
A子:それが、分かんないんだ。
稲垣:そう言うことが、許されなかったのかな。
A子:うーん、分かんない。
稲垣:自分の気持ちを素直に出すことを。
A子:分かんない。
稲垣:それで、あなたは、分かんなくなっちゃったんだよ。
A子:うーん、分かんないことだけしか分かんない。
稲垣:だからね、大人のあなたと一つになると、そういうことを、大人のあなたがやってくれる。
A子:今、なんか好きなものが欲しい。
稲垣:好きなものが欲しい?
A子:うん。
稲垣:好きなものって何かな。
A子:分かんないんだそれが。
稲垣:分かんないの?
A子:うん。
稲垣:今、私はあなたのね、額に手を置いてるよ。
A子:うん。
稲垣:これはあなたのことを本当に大事にしようという、そういう気持ちの表れですよ。
A子:そーう?
稲垣:だからそれを、あなたが受け入れてくれたら、あなたが一番今までお母さんにしてもらえなかったことだろうと思う。
A子:ご飯なんか、好きなものが知りたい。
稲垣:お母さんの?
A子:違う。私が、何が本当は美味しいと思うか知りたい。
稲垣:一番美味しいのはきっとね、あなたを認めてくれるね、男性とめぐり会うことかな。
A子:なんで?
稲垣:それは、あなたをきっと可愛がってくれるからだよ。
A子:ご飯だよ、ご飯。
稲垣:えっ?
A子:ご飯が食べたいんだよ。
稲垣:ご飯が食べたいの?
A子:美味しい、どれが美味しいご飯か知りたいの。
稲垣:うーん。だったら、あなたが、大人の自分と一つになるのが一番いいよ。
A子:それは、やだ。
稲垣:そして、大人のね、あなたが、美味しいもの食べてくれれば…。
A子:ご飯が食べたい。ご飯が食べたい。
稲垣:それは、あなたが、食べたことになるもん。一つになれば。
A子:うーん。
稲垣:でも、離れ離れになってれば、そんなこと出来ないに決まってるでしょ。
A子:美味しいご飯が知りたーい。
稲垣:美味しいご飯は、一つになって、大人のあなたに、食べて、食べてってお願いすれば、食べてくれるよ。そしたら一つになってるから、当然あなたが…。
A子:それは出来ないから、今、知りたいんだ。
稲垣:今、知りたいの?
A子:うーん。
稲垣:うーん。どうしたらいいのかな。
A子:ご飯食べたい。
稲垣:(笑いながら)ご飯食べたいの。あまり食べさせてもらってないことがあったの?
A子:うーうん。でも、お母さんのご飯、あまり好きじゃなかった。
稲垣:ほーう。
A子:どれが美味しいのか分からない。
稲垣:分からないの?
A子:うん。
稲垣:でも私に言わせると、あなたが、大人の自分と一つになれば、大人の自分が食べてくれるから、それはそのまま、あなたが食べたことになるんだよ。
A子:でも大人の人もね、ご飯よく分かんないと思って、いつも食べてるね。
稲垣:そうかな。
A子:うん。
稲垣:へー。美味しいのが分からないの?
A子:どれもおんなじ。
稲垣:(笑いながら)どれもおんなじ?
A子:うん。
稲垣:それちょっと変だね。
A子:変じゃないよ。
稲垣:何で?
A子:どれもおんなじだから。
稲垣:あなたが、そういうふうに仕向けているんじゃないの?
A子:うーうん。だから、なにが美味しいのか知りたいの。
稲垣:うん。そーうかなー。
A子:美味しいやつ。
稲垣:えっ?
A子:美味しいやつ。
稲垣:美味しいやつ?
A子:うん。
稲垣:じゃあ、あなたは、大人のあなたの中に、別個の存在って分かるかな。別個の存在としていてね、離れ離れになっちゃっているから、分からないんだろうと思うよ。
A子:私が思い出さないと、きっと大人の私も、思い出さないと思う。
稲垣:そうかなー。
A子:うん。今は美味しいものが食べたいの。
稲垣:だからあなたは、じゃあ、大人のあなたになってるのがいるんだけど、その者が美味しいものを食べたら、あなたに伝わるかな。
A子:うん。
稲垣:うん。そしたらもうあなたも、美味しいってのが分かるから、いつもそれを普通に味わえるように大人のあなたと一つになってくれる?
A子:出来ない、それはー。
稲垣:出来ないの?
A子:うん。どうしても出来ないんだー、まだ。
稲垣:まだ、出来ないのね。
A子:うん、まだ出来ない。
稲垣:いずれは出来るね。
A子:いつか、きっとまた、おじちゃんがやってくれる。
稲垣:うーんまあ、それだけ頼りにされればやってあげるけど、でもあなたもね、やっぱり大人の自分と一つになれるように努力しなけりゃ駄目だよ。
A子:おじちゃんがしてくれたから、分かってき始めたー。でも今は、まだ出来ない。
稲垣:まあいいわ。今やれっていうことは、しつこく言いません。
A子:うん。
稲垣:でもね、ちゃんとね自然に、一つになってくれるのを待ったほうがいいかな?
A子:うーうん。おじちゃんがやんないと出来ない。
稲垣:ははは。そんなことないよ。あなたが努力すればいいんだよ。
A子:無理だね。
稲垣:無理じゃないね。
A子:ふーん。
稲垣:寂しくないの?
A子:うん。もう今日はおじちゃんが、色々してくれたから、すごくいい。なんかいい。
稲垣:うーん。どうしても今日は一つになってくれないの?
A子:うーん。
稲垣:じゃあまた、そういう気になったらおいでなさい。
A子:うん。おじちゃんありがとう。
稲垣:まあ、お礼を言ってもらうのも嬉しいんだけど、おじちゃんが嬉しいのはあなたが大人にね…。
A子:また来るから。
稲垣:あなたと一つになることだよ。
A子:うん。分かった。
稲垣:それになってくれないともう、おじちゃんも悲しくなる。
A子:約束する。
稲垣:約束ができるね、そしたらまあ今日のところは、無理をしないで… 。
A子:お願いがある。
稲垣:何ですか?
A子:大人の私が、こっちの今の私が好きなものを食べたら分かるようにして欲しい。
稲垣先生:うーん、どうしたらいいかなそれはね。今あなたはね、大人の私とね心、心って言っちゃいかんな、大人の私と別々になっちゃてるけど、そして今、催眠状態って中であなたが出てきているんだけどね、催眠から覚めた後で、大人のあなたにそう言っとくわ。 美味しいものは、美味しいように食べてちょうだいって。
A子:うーん。
稲垣:そうすると、それが、あなたに伝わっていくはずだよ。分かれてはいるけど元は一つなんだからね。
A子:うーん。
稲垣:あなたにも、伝わるはずです。ね。そしてあなたも、美味しい味を分かって、こんな面倒くさいことをしなくても、一つになったほうがいいわ、という気持ちになって来ると思うよ。
A子:うーん。
稲垣:うん。だって、それおかしいんだもん。一つでないことが、おかしいんだよ。
A子:分かんない。
稲垣:うーん、それは、あなたには分からんかもしれない。でもそれが普通ですよ。
A子:ふーん。
稲垣:こんなふうにね、一人の中で二つもね、大人の自分と子どもの自分が、分かれ分かれになってるって、おかしな話でね。
A子:うーん。
稲垣:でも、あなたは、やっぱりそういうふうにして、なんかお母さんに、うーん。
A子:お母さんの悪口?
稲垣:可愛くない、みたいなことを言われ続けたのかな。駄目な子だってね、それで悲しかった。滅茶苦茶にね。
A子:分かんない。
稲垣:だって、さっき涙こぼしたんだから、分かんないはずがないでしょ。
A子:うーん。
稲垣:そういったところが、可愛くないんだよ、私に言わせると。ふふ。すぐ…。
A子:お母さんも、同じこと言ってた。
稲垣:そうでしょ。そういうこと言うはずだよ。言われちゃうよ、分かんない、分かんないって言ってたら。
A子:でも、分かんないんだもん。
稲垣:でも一番悪いのはお母さんだよ。はっきり言ってね。そんなふうにね、娘が自信を無くするようなことを言っちゃ駄目なんだよ。だって、娘にとってはお母さんはもう絶対の存在だからね。そういう絶対の人から、あなたは駄目な子だって言われたらね、やっぱり 傷付いちゃうね。その傷が相当深かった。だから、あなたは分離しちゃったの。本当なら大人の自分と一つで、一緒に成長していかないかんのにね、離れ離れになっちゃったの。 だから、今こうやってあなたは出てきちゃったわけだよ。
A子:(小さい声で)死にたい。
稲垣:あー?
A子:死にたい。
稲垣:何?
A子:死にたい。
稲垣:死にたい? 誰が死にたいの?
A子:私。
稲垣:子どものあなたが死にたいの?
A子:うん。
稲垣:うん。でもあなたが死んだら、あなたに繋がっている大人のあなたも死んじゃうことになっちゃうよ。
A子:知ってるよ。
稲垣:うん。それはまずいでしょ。それは止めたほうがいいな。
A子:うーーん。
稲垣:まだまだ、色々楽しいことが待ってるに違いないから。
A子:楽しいことって?
稲垣:そんなことなんか、今分かるはずがないでしょ。未来のことなんか誰にも分からない。
A子:今、楽しくない。
稲垣:うん?
A子:今、楽しくない。
稲垣:楽しくなるように、大人のあなたと一つになりなさい。
A子:それは、まだだと思う。
稲垣:じゃあ、取りあえずね、あなたは本当は悪くなかったことをね、それは分かったでしょう。
A子:まだ分かんない。でも、分かんないだけじゃない。お母さん、ひょっとしたら、お母さんも、悪かったのかもしれない、ということだけ分かった。
稲垣:そこはよく考えてくださいね。うーん。だって、大人と子どもの関係ではね、それはお母さんが悪いに決まっているわ。
A子:でも、お母さんは正しいから。
稲垣:お母さんは、そうやって言うかもしれないよ。でも、子どものあなたは、お母さんのようにね、色々経験してないから分からないだけです。お母さんの間違いも分からない。全部正しいと思い込んでるだけだよ。
A子:そうなのかなー。
稲垣:そうなんだよ。どこかであなたは、お母さんはおかしいなとは思ってたはずだよ。でも、そんなこと言えないもんね。言ったら余計嫌われちゃうでしょ。
A子:うーん。
稲垣:だから、嫌われたくないから、じーっとあなたは我慢していたわけ。それがね、余りにも辛くて、大人になりそこねて、今みたいの子どものままでね、大人になっていくことから取り残されているんだよ。
A子:ふーん。
稲垣:そういうことだよ。だから、まず大人のあなたと一つになりましょう。あなたは、大人になってるんだから。本当は。
A子:うーん。
稲垣:あなたが、残っちゃったことがおかしいんだからね。あなたが、一つになろうと思ったらなれます。必ずなれるよ。
A子:じゃあね、それもまた、おじちゃんにやってもらう。
稲垣:えー?
A子:また、おじちゃんがやる。
稲垣:はは。まあ、いいや。それはね、あなたに任せる。
A子:うん。
稲垣:でも、もう、自分は駄目だ、駄目だって、大人のあなたに言っちゃあ駄目だよ、そんなことは。それはやめたほうがいい。大人のあなたはとてもね、あのスタイルの良い女性にね、成長しているんだから。
A子:本当かなー。
稲垣:本当だよ。嘘はつきません。
A子:ふーん。
稲垣:男性から見たら、とても魅力のある女性に成長してるんだから、その大人の女性になっているあなたにね、子どものままでいるあなたが、駄目だ駄目だって言い続けるから、大人のあなたも、駄目だって思っちゃってるわけよ。
A子:うーうん。お母さんだよ。
稲垣:うん?
A子:駄目だって言ったの、お母さんだよ。
稲垣:うん、言ったのはお母さんでしょうね。でもね、そんなことは無いはず。いくらそれをね、大人のあなたに言ってもね、やっぱり大人のあなたも、なかなかそれを信じようとしないね。
A子:うん。
稲垣:それはあなたのせいだよ。あなたが悪い。
A子:おんなじだから。
稲垣:だから一つになって欲しいの。
A子:言ってること分かるけど、今は出来ない。
稲垣:うーん。はい。同じこと繰り返ししても仕方がないから、時間の経つのを待ちます。そしてあなたのほうにね、もうそろそろ一つになろうかと、そういう気持ちがだんだん湧いてくるきっと。それを待ちましょう。
A子:うーん。
稲垣:じゃあね、これから三つ数えたら、またあなたは魂の表層に現世の者がいて、そこからあなたが出て来てるんだから、その本来のあなたのいる場所へ戻りましょうね。
A子:うーん。
稲垣:出来たら、大人のあなたと一つになっちゃうといいけどね。そういうこと出来ない。なれないならなれないで、まあ、また、あなたを呼び出して、お話して納得しても らおうかな。じゃあ、もう今日のところは戻ってくれますね。
A子:うん。
稲垣:じゃあ三つ数えたら、魂の表層にいる、現世の者の中に戻ってくださいね。じゃあ、 三つ数えますよ。一つ、二つ、三つ。はい。さあ、今あなたは魂の状態にあります から、これからね、あなたの場合は催眠の感受性がとても高いので、ひょっとしたら魂が 肉体から分離してちょっとずれたり、肉体の外へね、浮かび出してる可能性があるので、これから五つ数えて催眠から覚めてもらうんだけれども。
A子:まだー。
稲垣:まだー?
A子:まだもうちょっと。
稲垣:もうちょっとどうしたいの?
A子:何か聞いて欲しかった気がする。
稲垣:もうちょっと聞いて欲しいの?
A子:うん。いきりょう、生き霊のこと聞いて欲しい。
稲垣:うつ病のこと?
A子:生き霊。
稲垣:あっ、生き霊か。生き霊がいるかどうかってこと?
A子:今いるのか、もういないか。
稲垣:ふーん。そんなのすぐ分かるよ。
A子:本当? 何で死にたくなるまでなったのか怖い。何で死にたくなるまでに至ったのか、理由が分からなくて怖い。
稲垣:死にたくなった?
A子:うん。
稲垣:それはひょっとして、インナーチャイルドのあなたのせいじゃないの。
A子:違う。
稲垣:他になんか原因がありそう?
A子:あった。それが知りたい。
稲垣:その死にたいようなことを考えさせている者が、ひょっとしたら、あなたに憑いていたかもしれんね。
A子:うーん。何が原因か分からないから知りたいです。
稲垣:ひょっとしたら、ご先祖に関わっているかもしれないからね。それ聞いてみようか。
A子:色々聞いて欲しいです。
稲垣:じゃあ聞いてみましょう。いいですか。ご先祖の中で、ご先祖というのはあなたの母方も父方も含めてご先祖ですが、そういう方の中でね、未浄化霊として苦しんでいて子孫であるこの者にね、死にたくなるような気持ちを引き起こしている、そういうご先祖の未浄化霊がおいでになるなら、出ておいでなさい。または、ご先祖以外の霊的存在であっても死にたくなるような気持ちを引き起こしている存在、三つ数えますからね。この部屋は私が許可しない限り、結界が張ってあるから、入って来れませんが、特別許可しますから、この者に憑依していいですよ。じゃあ三つ数えます。一つ、二つ、三つです。
A子:あーーっ。
稲垣:ああ。どなたか憑依されたのですか?
A子:なに、なに、うーん?
稲垣:あなたがそうなの?
A子:(戸惑っている様子)分からん、ん、な、な、何で私が来たんだ。
稲垣:そんなこと、私に分からないよ。私が、この者に死にたくなるような、うつの状態を引き起こしていることに、関わっているそういう霊的な存在がおいでになるなら憑依してくださいってお願いしたの。それがあなたでしょ。
A子:うん。うーーーん。うーーん?うーーーん。
稲垣:あなたは肉体持ってないでしょ。
A子:えーっ?うーーん。ちょ、うーん?うーーーん。
稲垣:じゃあ、あなたはひょっとしたら、未浄化霊と呼ばれているそういう存在?
A子:違う。それは違う。
稲垣:違う? じゃあ、どういう存在ですか?
A子:分からない。
稲垣:分からないんだ。
A子:うん。
稲垣:分からないという存在だ。
A子:呼んだ。誰が呼んだ?
稲垣:私が呼んだ。
A子:何で呼んだ?
稲垣:だってこの者が苦しんでいるからですよ。あなたは今、憑依している。
A子:この者って誰?
稲垣:この者はこの者。あなたが憑依している者ですよ。あなたが喋っているのは、この憑依されているこの者のね、声帯と舌を使って喋っているんですよ。
A子:うーん。
稲垣:で、憑依するということはね、あなたは、肉体を持っていないはずだよ。
A子:うーん? いや、肉体はあるはず。
稲垣:どこにあります?
A子:分からない。
稲垣:分からない? そんな馬鹿なことはないよ。
A子:誰が呼び出したの?
稲垣:私です。
A子:何の目的で?
稲垣:あなたが、憑依しているこの者がね、死にたくなるようなうつの状態になって… 。
A子:こいつは、死んでもいいんじゃなーい?
稲垣:そのためのね、そういう原因を引き起こしている者がいるなら、出ておいでなさいって言った。
A子:だって邪魔だから。
稲垣:そしたら、あなたが出て来たんだよ。
A子:うん。目障りなんだよね。
稲垣:誰が?
A子:うーん、こいつが。
稲垣:なんで目障りなんですか?
A子:目障りなものは目障り。とにかく目に映ると邪魔くさいから、私の目の前から消えて欲しいって思う。
稲垣:ほーう。じゃあ、あなたってあれかな、生き霊か。誰かの。
A子:うーーん。そうなんじゃないかなーー。
稲垣:そうなんじゃない。ひょっとしたらこの者のね、会社の人間ですか?
A子:そうだよ。
稲垣:あなたは。お名前を言ってごらんなさい。あなたを飛ばしている本人の。
A子:こいつは、私のことを知らない。
稲垣:じゃあ、あなたは、どういう人です?
A子:会社で、こいつのことは知っているけど、こいつは私のことは知らない。
稲垣:知らないの。どういう関係ですか?
A子:私はこいつをよく見てた。そうだ。そう。お前は私のことなんか知らない、嫌と思っているだろうが、私はお前のことをよく知ってる。お前が、周りの男性がお前の話をしてるのが、とにかく面白くなかった。
稲垣:うーん。やっぱりあなたを飛ばしているのは、同じ会社の人間だったの?
A子:そうだ。
稲垣:うーん。この者の会社の人間、女性ですかあなたは。
A子:そうだ。
稲垣:えー。じゃあ嫉妬してるんだな。ね。
A子:何で関わりがないくせに、関わりがない女の話をしているんだ。全く理解が出来なかった。私という人間がいるにも関わらず、何故、あのC男の部下にいるこの女の話がよく出るのか分からなかった。他にもいる。この女のことを良く思ってないってやつが一杯いる。
稲垣:うーん。何で、良く思ってないんでしょう。
A子:(笑いながら)目立つから。
稲垣:あー?
A子:(笑いながら)目立つからに決まってる。
稲垣:目立つからあー。
A子:この女は、何もしてないくせに、何でか知らないけど目立つ。とにかく鼻につく。
稲垣:あー。それが嫌なんですか。
A子:そりゃそう。私は綺麗なんだから。
稲垣:うーん、じゃあ、あなただな。この者に憑依して…。
A子:私もそうだけれども、この者をそう思っているものは、沢山いるということだ。
稲垣:だけど、実際生き霊としてね、来ちゃってるのは、あなただよね。
A子:私のはまだ軽いものだ。
稲垣:まあ、どっちにしてもそんなことしてもらってちゃあ困るよねー。
A子:もうすぐ帰る。
稲垣:うん?
A子:私も、多少の影響を与えている存在として、呼ばれたの出て来てしまっただけで、軽いものである。そんなに重いものではない。
稲垣:うん。じゃあ、この者から離れて戻ってくれますか?
A子:ただし、この女には、そういうのが憑きやすい。
稲垣:うん。
A子:(笑いながら)この女、嫌だけど、この女が言うには、とにかくそれを防ぐ方法を知りたいと言ってる。
稲垣:この人はね、優れた霊媒体質を持ってるからね、あなたのような存在が飛んでくることをね、防ぐのは… 。
A子:この女は、だからそれで、早くさっさと潰れればいいんだ。
稲垣:難しいね。修行するしかないかな。
A子:それは、あなたの仕事なんじゃないですか。
稲垣:ま、どちらにしてももう、あなたはちょっと戻って欲しいな。
A子:うん。帰ろう。
稲垣:帰ってくださる?
A子:うん。
稲垣:じゃあ、三つ数えたら、あなたを飛ばしている本人の元へ戻ってください。飛ばすとね、本人も苦しむんだよ。苦しいしね、衰弱するって言われている。決して…。
A子:私は美しくないといけない。
稲垣:えっ?
A子:私は、美しくないといけないから帰る。戻して欲しい。もう、そもそも呼ばれたくもなかった。
稲垣:あっそう。じゃあ、三つ数えたら戻ってくださいね。はい、一つ、二つ、三つですよ。はい、OKですね。
さあ、ここまでにしときましょうか。ね。多分、死にたくなるような鬱状態を表出させていたのは、どうも生き霊せいも、あったね。
A子:どうにかしてください。
稲垣:えっ?
A子:どうにかしてください。何かうまく生き霊を防ぐ方法を伝授して欲しい。こんなに一杯来てたら困る。
稲垣:うーん。どうするかなー。ちょっと試してみましょうか。何をするかというとね、不動明王の真言を、あなたの霊体にね、これから入れて、バリアを張ります。不動明王の真言というのは、未浄化霊も含めて、よろしくない霊をね弾き飛ばす力があると言われていますからね。じゃあこれから、あなたの脳天チャクラから不動明王の真言を唱えて霊体全体にバリアを張り巡らします。
耳なし芳一の話知ってるかな、耳なし芳一はね、体中にね般若心経を墨で書いて、悪霊の目から見えないようにしてね、逃げようとしたわけだけど、結局耳だけ般若心経の文字を書くの忘れて、で、悪霊に耳をちぎられちゃったって話です。
そんなことにならないように、霊体全体にねバリアを張るようにしますからね。 最強の仏さまである不動明王の真言は、「のうまくさんまんだー、ば ーざらだんせんだ、まーかろーしゃーだ、そわたや、うんたらたーかんまん」です。この真言を念じながら、よろしくない霊的存在が、あなたの霊体に憑依できないようにこれからバリアを張っておきます。
(脳天に手をかざしながら、5分間不動明王の真言を繰り返し唱える)
OK!さあ、これであなたのね、霊体全部に、不動明王の真言を唱えて、バリアを張りましたから、大丈夫です。じゃあ、五つ数えたら催眠から覚めましょうね。 一つ、さあ少し覚めてきた。二つ、どんどんどんどん覚めてきますよ。二つ、どんどんどんどん覚めてきますよ。三つ、さあもう半ばまで覚めましたよ。四つ、さあもう少しで覚めます。覚めたらとってもすっきりしているはずです。どうやらね、あなたに、死にたくなるような鬱の状態を作っているのは、昔からいたインナーチャイルドそのせいです。それと、今出て来たあなたの勤め先の会社の女性の生き霊のせいです。死にたくなるほどのね、そういう気持ちを引き起こしてきたに違いないと思うけど。生き霊の元のね、飛ばしている本人の所に戻ってもらったし、またあなたの所へ飛んで来てもね、不動明王の真言でバリア張ってますからね、もうあなたに憑依することが絶対にできません。大丈夫です。さあ、完全に覚めますよ。はい五つ、さあ、催眠からすっかり覚めました。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(セッション終了 )
覚醒後、A子さんが言うには、自分の中にインナーチャイルドがいるなんて、まったく信じてはいなかった、と断言しています。
そして、セッション1ヶ月後の現在、死にたくなるなるような抑鬱状態は改善され、気持ちは順調に回復に向かっているという報告を受けています。
こうした結果から、少なくともこの事例において、SAM催眠学の仮説によるインナーチャイルド療法は成り立つものと評価してよい、と考えています。
さて、ここに紹介したインナーチャイルド療法の事例は、臨床心理学的、催眠学的にどのような解釈の可能性があるのでしょうか。
前提として、催眠誘導前の、初回、および今回の面接でも、日常生活においても、A子さんには統合失調症、境界性人格障害などによる被害妄想や幻聴などの精神疾患の兆候がないことを確認しています。
また、これまでにおこなっているインナーチャイルド療法6事例のうち、5事例のクライアントに顕現化したインナーチャイルド人格は、口頭で対話できました。
「魂状態の自覚」に至って、口頭での対話が可能であるのは、霊媒体質の持ち主であることが分かっていますから、A子さんは霊媒体質であると判断できます。
また、セッションの終わりに近い段階で、インナーチャイルドと交代して、会社同僚の女性が飛ばしていた生き霊が憑依していたことから、A子さんが憑依体質であることも判断できます。
こうした前提のもとに、インナーチャイルドの顕現化現象と私との対話を、「幼い頃のトラウマないし悲哀の記憶の抑圧の解除」という、精神分析の理論でとらえることは可能でしょうか。
催眠下で起こる「要求特性」によって、A子さんが抑圧してきた「子どもの頃の悲哀の記憶」を想起し、それらの記憶をもとに、彼女が「架空のインナーチャイルド人格を創作し、それに仮託して語っているフィクションだ」という解釈は、私が強引にそのような創作誘導の暗示をしていない限り、かなり不自然な解釈のように思われます。
催眠下では作為による創作は否定されます。
彼女が知覚催眠レベルの催眠に入っていたことは、標準催眠尺度によって確認しています。
ちなみに「要求特性」とは、催眠中のクライアントが、セラピストの要求していることを無意識的に察知し、それに応えようとする心理傾向のことです。
あるいは、「要求特性」によって、A子さんが架空のインナーチャイルド人格を作り出し、あたかも、その人格としての無意識的な役割演技をしている、という催眠学上の「人格変換現象」だ、と解釈することも、A子さんの「インナーチャイルドをまったく信じていなかった」という断言からすると無理な解釈のように思われます。
また、インナーチャイルド人格は、明らかに現在進行形の対話をしていますから、A子さん自身が、幼い頃のトラウマの「過去の記憶」を想起して、インナーチャイルドとして語っているという解釈も否定できます。
ナラティブセラピー(物語療法)という心理療法があります。
クライアントが、自分で自分の人生を語りながら、問題点を見つけたり、自分の過去の物語をとらえ直したりすることで、自らを再生していこうというものです。
「ナラティブ」とは「語り」という意味ですから、A子さんが自分を、架空のインナーチャイルド人格に仮託し、退行しての「語り」だという解釈をすれば、ナラティブセラピー的説明ができる一面はありますが、事実は似て非なるものです。
インナーチャイルド療法の仮説と、ナラティブセラピーの仮説の共通点はまったくありませんし、クライアントに催眠を用いるかどうかという点でも決定的な違いがあります。
逐語録で注目すべきことは、たとえば、インナーチャイルド人格は、私のことを何度も「おじちゃん」と呼んでいることです。
A子さんは、私のことを「先生」以外の呼び方をしたことは一切ないのです。
さらに、大人になっているA子さんを、別人格のように対象化して、「こいつ」と呼んでいることです。
こうして、顕現化したインナーチャイルド人格の、口調や表情や落涙の様子を観察した限りにおいて、幼い少女そのままの人格でしかなく、30代後半の年齢のA子さんに、とてもこのような無意識的演技が可能だとは思われません。
このことは、「タエの事例」で、前世人格「タエ」が、50代になろうとしていた被験者里沙さんに顕現化したときの状況観察と重なるものでした。
里沙さんの口調や表情は、明らかに16歳のタエそのままの人格を思わせるものだったからです。
したがって、逐語録で確認できる、A子さんにあらわれた「意識現象の事実」は、インナーチャイルドが、「耐えがたい悲哀の体験をしたために傷つき、大人の人格へと成長していく本来の人格から分離(解離)され、取り残された子どもの残留思念の集合体であり、意志を持つ別人格としての属性を備えて形成されたもの」の顕現化である、と現象学にとらえることが妥当ではないでしょうか。
そして、こうした仮説による6事例のセッションで、現に改善効果が実証されています。
you-tubeで公開している「タエの事例」のタエ、「ラタラジューの事例」のラタラジューの二つの前世人格は、魂状態での呼び出しによって、魂表層から顕現化した前世人格であり、完璧ではないものの、その存在がほぼ実証がされています。
同様のSAM前世療法のセッション手続きによって、A子さんの魂表層の「現世の者」に内在しているインナーチャイルド人格が、呼び出しに応じて顕現化したのは、SAM催眠学の「残留思念仮説」に立てば、当然の現象だと考えることができるのです。
しかし、現時点では、インナーチャイルド人格の存在は、状況証拠と改善効果をもって、間接的な実証とするしかないだろうと思います。
SAM催眠学が探究している、催眠下の「魂状態の自覚」において確認してきた前世人格・インナーチャイルド人格・生き霊・未浄化霊などの霊的人格の顕現化現象は、「魂状態の自覚において立ち現れる意識現象の事実」の謎として、どこまでも尽きることがありません。
同時にそれは、「人格」の成り立ちの大きな謎でもあります。
生まれ変わりの科学的研究の泰斗であった、バージニア大学イアン・スティーヴンソン博士が、自分の研究室を「人格研究室」と名付けたのは、こうした意味合いがあったからだろうと思われます。
私も、前世人格・インナーチャイルド・未浄化霊・生き霊などの霊的人格が、クライアントの心理的、肉体的健康に及ぼす影響を探究する意味で「メンタルヘルス研究室」と名付けています。
そして、「いかなる霊的意識現象も先験的に否定せず、いかなる霊的意識現象も検証なくして容認せず」というのが、SAM前世療法で立ち現れる不思議な「意識現象の事実」の謎に対する私の基本的思考態度です。
私の実証的探究の公開目的の第一義は、霊的諸意識現象のできる限り確実な客観的証拠を示すことにあり、私が催眠臨床で実体験してきたそれら諸証拠の解釈について、考えられる限りの可能性のすべてを厳密に検討され、得心のいく自分なりの妥当な結論に到達していただくことにあります。
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注: SAM催眠学用語の「魂」や「霊」は、宗教的意味を一切含みません。
便宜上の概念として、「魂」とは、肉体という器に入っている「霊」を意味します。「霊」とは、「肉体を持たない人格的意識体」を意味します。
したがって、肉体という器を失えば、「魂」を「霊」と呼び換えることになります。
こうした用語の概念によって、香典袋の表書きを「御霊前」とするのは理に適っていると思われます。
霊も、魂も、本質は同じであり、肉体という器の有無によって呼び方を換えているだけだ、と定義しています。
したがって、SAM催眠学の定義では「霊的意識体」とは、「肉体を持たず一個の人格としての属性を帯びた意識体」のことを指します。
こうした人格の属性を帯びた意識体を、人格として見做して扱いますから「見做し人格」と名付けようと思います。
ただ、その霊的意識体の本来存在する居場所によって、「インナーチャイルド」・「前世人格」・「生き霊」・「未浄化霊」・「高級霊」・「守護霊」・「ガイド」などのように名称が変化するということです。
「インナーチャイルド」・「生き霊」・「未浄化霊」は霊ではなく残留思念の集合体だと考えますから「見做し人格」だということになります。
ちなみに、私の守護的存在は「ガイド」を名乗っています。
「ガイド」とは、生まれ変わりを経ないで霊界で霊性の進化を遂げた守護的存在、「守護霊」とは、生まれ変わりを経て霊性の進化を遂げた守護的存在、という名称状の便宜的区別をしている、と私あて霊信が告げています。
「守護霊」も、「ガイド」も、「守護的存在である霊」という意味では、本質は同じだということです。
また、「守護霊」は、霊的真理を広める使命を与えられ、再び地上の人間に生まれ変わることがある、とも告げています。
実際、クライアントの前世のうちに、「守護霊」であった者が十数名確認されています。
SAM催眠学では、これまでのSAM前世療法セッションで確認してきた「意識現象の事実」の累積から、霊的意識体の存在を認めています。
SAM催眠学の「SAM」とは、soul approach method の略であり、つまり、SAM催眠学は、「魂状態に接近するSAM前世療法」によって、「魂の自覚状態」へと導き、そこで起こる、前世人格をはじめとする霊的意識体の顕現化諸現象を、科学的方法論で検証・探究し、体系化した理論へと構築する、潜在意識の深層レベルの「催眠学」を目指しています。
明治時代の末に起きた、東大の催眠研究者であった福来友吉博士の「念写実験」が、インチキの疑惑ありとされた事件が起こって以後、日本の催眠学(アカデミズム)は、超常現象の探究をタブーとしてきました。
SAM催眠学は、これまでの催眠学が、非科学的だとして排除してきた、催眠中にあらわれる「霊的領域の諸現象」の探究に、在野の臨床催眠実践者の立場から、光を当てようとするささやかな試みです。